
「このままの給料で将来やっていけるのだろうか…」保育士として働く中で、このような不安を感じたことはありませんか?
保育士の仕事は子どもたちの成長を支える素晴らしい職業ですが、その責任の重さに比べて給与面での悩みを抱える方は少なくありません。
実際、厚生労働省の統計によると、保育士の平均年収は約320万円と、全産業平均と比較して約100万円も低い現状があります。
しかし、諦める必要はありません。
適切な転職戦略を立てることで、保育士としてのキャリアを活かしながら、給与アップを実現することは十分可能なのです。
本記事では、保育士として10年以上のキャリアを持ち、3回の転職で年収を150万円アップさせた筆者の経験と、保育士専門の転職エージェントへの取材をもとに、具体的な給与アップ戦略をご紹介します。
保育の現場で培った経験を活かしながら、より良い待遇で働くためのヒントが見つかるはずです。
保育士の給与の現状と課題
まずは保育士の給与の実態について正確に理解しておきましょう。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、保育士の全国平均年収は約320万円、月給にすると約21万円程度となっています。
これは全産業平均の約430万円と比較すると、約100万円以上も低い水準です。
保育士の給与が低い主な理由としては、以下のような要因が挙げられます:
- 公定価格に基づく運営費の制約
- 保育所の経営状況による予算の限界
- 女性が多い職場で昇給システムが整備されていない場合がある
- キャリアパスが明確でない施設が多い
特に私立保育園では、園によって給与体系が大きく異なり、同じ経験年数でも月給に5万円以上の差が生じることも珍しくありません。
また、保育士の給与アップが難しい背景には、「子どもが好きだから」「やりがいがあるから」という精神的な満足感で給与の低さを相殺する風潮も一部にあります。
しかし、生活の安定や将来設計を考えると、適正な給与を求めることは当然の権利です。
給与アップを実現する転職先の選び方
保育士として給与アップを目指すなら、転職先の選択が非常に重要になります。
単に「給料が高い」という情報だけで飛びつくのではなく、総合的に待遇を判断する視点が必要です。
運営主体別の給与比較
保育施設は運営主体によって給与体系が大きく異なります。
一般的な傾向として、以下のような特徴があります:
運営主体 | 平均年収の目安 | 特徴 |
---|---|---|
公立保育園 | 350〜450万円 | 安定した給与体系、昇給制度あり、ボーナス充実 |
私立認可保育園 | 300〜400万円 | 園によって差が大きい、処遇改善加算で昇給の可能性 |
企業主導型保育所 | 320〜420万円 | 企業によって待遇に差、福利厚生が充実している場合も |
認可外保育施設 | 280〜380万円 | 施設規模や方針によって大きく異なる |
保育士派遣 | 330〜450万円 | 時給制が多く、シフト次第で収入増の可能性 |
公立保育園は安定した給与体系が魅力ですが、採用枠が限られており競争率が高い傾向にあります。
一方、私立認可保育園は園によって待遇の差が大きいため、事前のリサーチが重要です。
地域による給与差を活かす
保育士の給与は地域によっても大きく異なります。
一般的に都市部、特に東京や神奈川、大阪などの大都市圏では給与水準が高い傾向にあります。
例えば、東京都23区内の保育士の平均月給は約25万円と、全国平均より約4万円高くなっています。
これは都市部の生活コストの高さを反映していますが、地方から都市部への転職で給与アップを実現できる可能性があります。
ただし、住居費などの生活コストも考慮した上で判断することが大切です。
給与以外の待遇も重視する
給与アップを目指す際は、基本給だけでなく総合的な待遇を見ることが重要です。
以下のポイントもチェックしましょう:
- 賞与(ボーナス)の支給回数と金額
- 昇給制度の有無と昇給率
- 住宅手当や通勤手当などの各種手当
- 残業代の支給状況
- 退職金制度の有無
- 有給休暇の取得率
- 社会保険の加入状況
例えば、基本給は他より低くても、年3回のボーナスがある園や、住宅手当が充実している園では、年収ベースでは高くなる場合があります。
また、労働時間や休日数、有給休暇の取得のしやすさなども、時給換算した実質的な待遇を左右する重要な要素です。
保育士の給与アップに効果的な資格とスキル
保育士としてのキャリアアップと給与アップを実現するためには、追加の資格取得やスキルアップが効果的です。
特に処遇改善加算Ⅱの導入により、一定の研修を受けたり、特定の役割を担ったりすることで給与アップが期待できるようになりました。
給与アップにつながる追加資格
保育士資格に加えて、以下のような資格を取得することで、給与アップやキャリアの幅を広げることができます:
- 幼稚園教諭免許:認定こども園や幼稚園での就業機会が広がる
- 社会福祉士:児童福祉分野でのキャリアアップに有利
- 児童発達支援管理責任者:障害児支援施設での管理職に必要
- 認定ベビーシッター:個人契約での高単価案件に対応可能
- チャイルドマインダー:家庭的保育事業での独立に役立つ
- 保育英語検定:インターナショナル保育園での就業に有利
特に幼稚園教諭免許と保育士資格の両方を持つ「保育教諭」は、認定こども園での採用において優遇されることが多く、給与面でも有利になる傾向があります。
処遇改善加算を活用したキャリアアップ
2017年度から導入された処遇改善加算Ⅱは、保育士のキャリアアップと給与アップを支援する制度です。
この制度では、以下のような専門分野のリーダー的職員に対して月額5,000円〜40,000円の処遇改善が行われます:
- 副主任保育士・専門リーダー(月額4万円アップ)
- 職務分野別リーダー(月額5千円アップ)
- 乳児保育
- 幼児教育
- 障害児保育
- 食育・アレルギー
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
これらの役職に就くためには、一定の経験年数と研修受講が必要です。
計画的にキャリアアップ研修を受講し、専門性を高めることで、給与アップの道が開けます。
管理職へのキャリアアップ
保育士としての経験を積み、主任保育士や園長などの管理職を目指すことも、給与アップの有効な手段です。
管理職になると基本給の上昇に加え、役職手当が支給されることが一般的で、年収が大きく増加します。
主任保育士になると月給で3〜5万円程度、園長になると5〜10万円以上のアップが期待できる施設も多いです。
管理職を目指す場合は、日頃から以下のようなスキルを意識的に磨くことが重要です:
- リーダーシップとマネジメント能力
- 保育計画の立案と実行力
- 保護者対応や地域連携のスキル
- 職員育成・指導力
- 事務処理能力
また、園長資格を取得するための研修や、経営に関する知識を学ぶことも将来的な給与アップにつながります。
転職活動で給与アップを実現するための具体的な戦略
ここからは、実際の転職活動において給与アップを実現するための具体的な戦略をご紹介します。
効果的な転職活動を行うことで、同じ保育士としての仕事でも年収を大きく向上させることが可能です。
転職のベストタイミング
保育士の転職において、求人数が増加し選択肢が広がる時期があります。
一般的に以下の時期が転職に適しています:
- 1〜2月:4月入職に向けた求人が最も多い時期
- 7〜8月:10月入職(中途採用)の求人が増える時期
- 年度末の退職者補充:急募案件で条件交渉がしやすい
特に1〜2月は新年度に向けた採用活動が活発になるため、求人数が増加し、条件の良い求人に出会える可能性が高まります。
また、経験年数の節目(3年、5年、10年など)での転職も、キャリアアップと給与アップを同時に実現しやすいタイミングです。
転職サイト・エージェントの効果的な活用法
保育士の転職で給与アップを実現するには、専門の転職サイトやエージェントを活用することが効果的です。
特に保育士専門のエージェントは、非公開求人を含む好条件の求人情報を持っていることが多く、給与交渉のサポートも期待できます。
効果的な活用法としては:
- 複数のエージェントに登録して情報収集の幅を広げる
- 希望条件(特に給与面)を明確に伝える
- 非公開求人の紹介を積極的に依頼する
- 面接対策や給与交渉のアドバイスを求める
- 定期的にキャリアカウンセリングを受ける
転職エージェントは無料で利用できるサービスなので、積極的に活用して自分に合った好条件の職場を見つけましょう。
履歴書・職務経歴書の書き方のポイント
給与アップを目指す転職では、自分の強みや実績を効果的にアピールできる履歴書・職務経歴書の作成が重要です。
特に以下のポイントを意識しましょう:
- これまでの経験で得た専門性を具体的に記載する
- 担当した年齢クラスや特別な保育(障害児保育、英語保育など)の経験を明記
- 行事の企画運営、保護者対応などの実績を数字を交えて表現
- 研修受講歴や追加資格を目立つように記載
- リーダー経験や委員会活動など、責任ある役割の経験をアピール
例えば、「3〜5歳児クラスの担任を5年経験し、運動会の全体プログラム企画を3年連続で担当」「アレルギー対応食の管理を行い、30名の園児の安全な給食提供に貢献」など、具体的な実績を示すことで評価されやすくなります。
面接での給与交渉テクニック
面接は単なる採用判断の場ではなく、給与条件を交渉できる重要な機会です。
効果的な給与交渉のテクニックとしては:
- 事前に業界や施設の相場を調査しておく
- 自分の市場価値(経験・スキル・資格)を客観的に把握する
- 希望給与は範囲(〇〇万円〜〇〇万円)で伝える
- 前職の給与より具体的な金額(例:3万円増)で交渉する
- 給与以外の待遇(ボーナス、手当、休暇など)も含めた総合的な交渉を行う
交渉の際は、「これまでの経験を活かして〇〇の分野で貢献できるので」など、自分の価値と結びつけた理由を伝えることが大切です。
また、即答を求めるのではなく、「検討いただけますか」と余地を残す言い方をすると、交渉がスムーズに進みやすくなります。
給与アップを実現した保育士の実例と体験談
ここでは、実際に転職によって給与アップを実現した保育士の方々の体験談をご紹介します。
これらの実例から、具体的な戦略のヒントを得ることができるでしょう。
ケーススタディ1:小規模保育から認可保育園への転職
Aさん(28歳・保育士歴5年)の場合:
小規模保育所で3年勤務後、定員120名の認可保育園に転職。
月給18万円から23万円へアップし、ボーナスも年間2.5ヶ月から4.5ヶ月に増加。
年収ベースで約120万円のアップを実現しました。
Aさんのポイント:
- 0〜2歳児の保育経験を深め、乳児保育のスペシャリストとしてアピール
- 保護者支援に関するキャリアアップ研修を計画的に受講
- 転職エージェントを通じて複数の園と面接し、条件を比較検討
- 面接では「少人数保育で培った一人ひとりに寄り添う保育」をアピール
Aさんの声:「小規模保育所での経験は、子ども一人ひとりをじっくり観察する力が身につきました。それを強みとしてアピールしたことで、新しい園では乳児クラスのリーダー的役割を任されています。給与面だけでなく、やりがいも増しました。」
ケーススタディ2:幼稚園教諭免許取得による認定こども園への転職
Bさん(32歳・保育士歴8年)の場合:
認可保育園で6年勤務後、通信制大学で幼稚園教諭免許を取得。
その後、認定こども園に転職し、月給22万円から27万円へアップ。
処遇改善加算Ⅱの適用で更に月3万円の手当が付き、年収ベースで約150万円のアップを実現しました。
Bさんのポイント:
- 働きながら通信制大学で幼稚園教諭免許を取得
- 保育と教育の両方の視点を持つ「保育教諭」としての価値を高める
- 転職先では「幼児教育」分野の専門リーダーとしてのポジションを獲得
- 処遇改善加算Ⅱの仕組みを理解し、キャリアパスを計画的に構築
Bさんの声:「資格取得は大変でしたが、その努力が確実に給与に反映されました。認定こども園では保育と教育の両方の経験が評価され、子どもたちの成長をより総合的に支援できるようになりました。将来的には副主任を目指しています。」
ケーススタディ3:企業主導型保育所への転職
Cさん(35歳・保育士歴10年)の場合:
私立認可保育園で8年勤務後、大手企業が運営する企業主導型保育所に転職。
月給24万円から28万円へアップし、企業の福利厚生(住宅手当、家族手当)も適用されたことで、年収ベースで約100万円のアップを実現しました。
Cさんのポイント:
- 企業文化への理解と適応力をアピール
- 長年の経験を活かした保育の質向上への提案を面接で具体的に提示
- 企業の福利厚生制度を詳細に調査し、総合的な待遇を評価
- 転職エージェントを通じて非公開求人にアクセス
Cさんの声:「企業主導型は定員が少なく、一人ひとりに丁寧な保育ができる環境が魅力でした。企業の福利厚生が適用されるため、基本給以外の部分でも待遇が大きく改善しました。特に住宅手当は家計の大きな助けになっています。」
給与アップ後も長く働き続けるためのポイント
給与アップを実現した後も、その職場で長く働き続けるためには、単に給与だけでなく職場環境や自己成長の機会も重要です。
ここでは、転職後に後悔しないための重要なポイントを解説します。
職場の人間関係と保育方針の確認
給与が高くても、職場の人間関係や保育方針が自分に合わなければ、長く働き続けることは難しくなります。
転職前に確認すべきポイント:
- 職員の定着率や平均勤続年数
- 園の保育理念や方針が自分の価値観と合うか
- 職員間のコミュニケーションスタイル
- 主任や園長の管理スタイル
- 新人や中途入職者のサポート体制
可能であれば、見学や面接の際に現場の雰囲気を感じ取ることが大切です。
また、転職エージェントに職場の内部情報や評判を聞くことも有効です。
ワークライフバランスの重要性
給与アップと同時に、ワークライフバランスも確保することが長く働き続けるためには重要です。
特に以下の点に注目しましょう:
- 残業の頻度と残業代の支給状況
- 有給休暇の取得率と取得のしやすさ
- シフト制の場合は希望休の出しやすさ
- 持ち帰り仕事の有無
- 行事準備の負担度
- 急な欠勤時のバックアップ体制
給与が高くても、長時間労働や休暇が取りにくい環境では、長期的には心身の健康を損なう可能性があります。
時給換算で考えると、残業が多い職場は実質的な時給が低くなることも念頭に置いておきましょう。
継続的なスキルアップとキャリア形成
給与アップ後も、さらなる成長とキャリアアップのために継続的なスキルアップが重要です。
長期的な視点でのキャリア形成のポイント:
- 園内外の研修機会の充実度
- キャリアアップのための支援制度(資格取得支援など)
- 園内でのキャリアパスの明確さ
- 専門性を高める機会(特別な保育プログラムなど)
- 自己啓発のための時間的余裕
自分の市場価値を高め続けることで、将来的な給与アップやキャリアチェンジの可能性も広がります。
また、転職先でも積極的に新しい役割や責任を引き受けることで、次のステップへの準備ができます。
まとめ:保育士の給与アップは計画的な転職戦略で実現可能
本記事では、保育士として給与アップを実現するための具体的な転職戦略について解説してきました。
保育士の給与は確かに全産業平均と比較すると低い傾向にありますが、適切な転職戦略を立てることで、年収を100万円以上アップさせることは十分に可能です。
給与アップを実現するためのポイントをまとめると:
- 運営主体や地域による給与差を理解し、好条件の職場を見極める
- 追加資格の取得や専門性の向上で自分の市場価値を高める
- 処遇改善加算Ⅱを活用したキャリアアップを目指す
- 転職のベストタイミングを見極め、専門エージェントを活用する
- 面接では自分の強みを具体的にアピールし、適切な給与交渉を行う
- 給与だけでなく、職場環境やワークライフバランスも重視する
保育士としての経験とスキルは、適切な環境で適正に評価されるべき価値あるものです。
自分の価値を正当に評価してくれる職場で働くことは、保育士自身のモチベーションアップにつながり、結果として子どもたちにより良い保育を提供することにもつながります。
計画的なキャリア形成と転職戦略で、保育士としての専門性を高めながら、経済的にも安定した未来を築いていきましょう。
あなたの保育士としての経験とスキルは、必ず適切な評価を受けるべき価値があります。自信を持って、より良い待遇での保育士キャリアを目指してください。
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